美月は、机の上の花を見つめていた。右の肘を付き、その手のひらにアゴをのせ、
「ふーっ。」と一つ大きく溜め息をついた。
昨夜の大雨の中、その花を持って来た勇直のことを想った。
「もう会えない。」
それだけを言い残し、勇直は走り去った。傘もささずに。
昨日までの美月だったら、勇直の後を泣きながら追いかけて行っただろう。けれども、昨夜の美月は違った。涙も出なかった。むしろ、その別れを予期していたかのように、勇直の言葉を受け入れた。もしかしたら、美月自身、そんな瞬間を期待していたのかも知れない。
勇直とは高校時代から時間を共にして来た。7年…。長い時が流れた。
空気のような存在―無くてはならない?―でも、普段は全くその実体を感じることがない、そんな勇直の人格を、美月は惰性の中に持て余していた。
窓の下を、サラリーマンが足早にバス停に向かう姿が行き過ぎる。美月は、急に現実に引き戻された。