僕は文字通り夢見心地でいた。
一昨日、共に過ごした女の子と戯れている夢だった。
「ふぁーあ、何だか良い夢だったな」
生あくびをしながら起き上がろうとした僕の目に、最初に飛び込んできたのは弓を引き絞り、矢を向ける男の姿……って
「うわわわっ!!な、何スかアンタは!」
男は、平安時代の貴族が着ていたような狩衣(かりぎぬ)を身につけ、黒い烏帽子をかぶっていた。
鼻髭をキレイに整えた、貴品のある顔立ちだ。
「何と申すか? 見ての通り、貴殿の夢を狩らせて貰うだけじゃ」
言うが早いか、男はヒョウと矢を放ち、僕の頭を射ぬいていた。
一瞬、これまでの人生が走馬灯の様に脳裏をよぎった……はずだった。
あれ?何ともない… トンッと音をたてて壁に突き刺さった矢に、なにやら護符の様なものがヒラヒラしていた。
「ふうむ、大した夢ではない」
矢にぶら下がっていた紙片を丸めてポイと放り出した男は、失望したような顔で『庶民はいかんな』とつぶやき、頭を振り振り消えていった。
夢?……
思わずつねってみた頬は、とっても痛かった。
その紙切れは、記念にとってある。