何週間ぶりに葵と一緒に帰った。
しばやく二人は無言で歩いた。
『ねぇ…。』
葵が口を開いた。
『人を慰めた事…ある?』
いきなり言われてびびった。
…あるよ、一回だけ。
『どんな時に言ったの?』
…正確には今から言おうと思う。
『えっ?』
前を歩いていた葵は振り返り、俺の顔を見た。
どおしたんだよ?学校休んだり、引きつった笑顔見せたり、お前らしくねぇよ。
『まさか晴輝に言われるとは。』
続けて葵はこう言った。
『私ね、来週に入ったら引っ越すの、お母さん…死んじゃったから。お父さんのいるイタリアに行くの。』
びっくりした。
いやびっくりするより呆然とした。
なんで?
なんで『今』なの?
行くな!行かないでくれ!
色んな事が頭によぎったけど……口には何も出てこなかった。
『結局…何も言ってくれないんだ…。』
葵は俺の顔を見て、すぐ立ち去ろうとした。
おいッ!
その一声で葵は止まった。
やっぱ…行っちまうのか?
『うん。』
行くなッ!!
気が付いたら俺は葵を抱き締めていた。
『晴輝には関係ないでしょ?他人の事なんか興味ないくせに。』
…違うんだ。
『何が違うのよ。いつも他人と自分との間に境界線を作って入らせないじゃない。』
…とにかく違うんだ。お前は俺の中ではもう他人じゃないんだ。
『それって…どういう事?』
…好きだ。
『えっ?』
…俺はお前が好きだ!誰が何と言おうとも、俺はお前が好きなんだ!誰にも渡したくない。
…ずっと…そばにいてくれよ…。
葵はしばらくうつむいていたが、涙をふいて、笑顔でこう言った。
『その言葉が聞きたかったのかも。伝えてくれてありがとう、もう聞けないかと思った。』
俺は涙が止まらなかった。
『私も…大好きだよ、晴輝。もし…晴輝が私の事をずっと想っててくれるなら、私は必ず帰ってくるから。』
そう言って、葵は俺の手を握った。俺は恐くて何も答えられなかった。
その日を最後に、俺は学校を休み、葵に一回も逢わなかった。そして葵はイタリアへ行ってしまった。