氷雪花−3

篝火七瀬  2007-11-22投稿
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部屋の前で座り込んでしまいなかなか戻ってこれない。
「わた…し…は…どうすれば…いいの…お兄ちゃん…わからないよ。」
『こちら側』に戻ってきてから私は部屋に入りふと目につき、机に立て掛けられていた写真たてを見た。
「これ…お兄ちゃん、覚えててくれたんだ。」涙ぐみながら写真を眺める。
私達が『家族』になって間もない頃、兄と二人だけで行った『秘密の場所』
「何時間もかけて行って、帰りに迷子になって最後には両親に酷く叱られたっけ………?」
小声で呟いた後に写真たてを持っていた手に妙な感触がして裏を見てみる。
「?…なんだろう。」不思議に思って、裏を外してみると2枚のメモ用紙が出てきた。
1枚には「またいこうねおにぃちゃん、やくそくだよ」と、書かれていた。
汚い字を見て、驚きと共に涙が頬を伝う。
「ずっと…忘れずに持っててくれたんだ…お兄ちゃん。」
そして、もう1枚には『約束守れなくてごめん』と書かれていた。
もしかしたら自分がもう長くない命だと知っていて書き残したものなのかもしれない。
「っ……………。」とめどなく溢れてくる涙を、私は抑える事が出来なかった。
両親に内緒で、兄の残したメモと写真を持って約束の場所へ行く事にした。
『ごめんね、お父さんお母さん。』たった一言の言葉をメモ用紙に書き遺して。
ザク…ザク…ザクザク。降り積もった雪の中を私は目的地まで何かに取り憑かれたかのように一心不乱に突き進む。
「…待っててね。」
日の登る前、白みがかった空を背に、霞んだ息を吐きながら歩いていく。
朝靄に包まれた白い世界は神々しく、荘厳な雰囲気だった。
手がかじかみ、既に感触がない。凍傷になっているのかもしれない。数時間かけてようやく着いた兄と私の『秘密の場所』。



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