私は随分と父親っ子だった。
父が仕事から帰ると「おかえりなさい」も言わずに飛び付いた。笑いながら私を抱き上げるのが父が家に帰って1番にすることだった。
母は笑顔で私をたしなめ、兄と妹は「自分も」と父にせがんだ。
私は随分と幸せ者だった
よく私達を叱ってくれる母。
危なっかしい遊びを沢山教えてくれる兄。
甘えん坊で私を頼りにしてくれる妹。
そして大好きな父。
私はとても温かい家庭で幼年期を過ごした。
私にとって寂しい出来事が起きたのは、私が小学2年の時だった。
父が転勤する事となり、別々に暮らす事になってしまった。
父は休暇ごとに帰って来てくれた。私は父が帰って来るのが楽しみでならなかった。
私は随分と悲しい思いをした
父が消息を絶ったのは、小学3年の時だった。
その時、母から祖父母が私達の将来の為に貯めた金を父が持って行ってしまったと聞かされた。
父には昔から愛人がいた事も。
私の夜泣きが、浮気の原因である事も。
私は随分と駄目な子供だった。
私が小学4年の時、父は見付かった。
すぐに両親は離婚した。
子供は母が引き取る事になった。兄も妹も、そして私も。
離婚後、父は再び行方不明になった。
現在も父の行方は分からない。
私は随分と父を待ち続けている。
いつか、戻って来てくれる日を心の隅で期待している。
私は随分と馬鹿だ。
待つ事しか出来ない私だけど。待つ事も諦めたら、一生父に会えない様な気がするから。
私は随分と父親っ子だ。