そう。
あれは、冬も終りの頃だった。
家々の屋根に降り積もった角砂糖は溶けていた。
そんなころ、メールのとあるやりとりで、相手と両想いである事が分かった。
中学生にも関わらず、内容は小学生と対して変わらなかった。
かなりベタな『好きな人誰?』といった内容だった。
送信して2分。
返事は「テツ(あだ名)の先に教えなきゃ言わない」だって。
仕方ない、返事に『2年のYSさん(メールの相手)すよ』と送信。
その4分後、返事には「小学時代に途中まで送ってくれた人」と。
一瞬、え?
それって…
俺か?
やっほうい!
喜びにみちあふれた俺は家の硝子によりかかり、返事を打とうとした。
見事に硝子は割れ、親にしかられた。
次の日、部活の朝練を早くからしていると、糸原木(しはらぎ)がやってきた。
そう、昨日のメールの相手だった。
『おはよう』と一言俺は言った。
すると糸原木は「おはよう」と返してきた。
こんなに素直な糸原木は初めてだったけど、顔は赤かった。
なるほど。
早速、練習を中断して昨日のメールについて聞いた。
『昨日のメール、本当なのか?』
「うっ…」糸原木は黙りこけた。
赤かった顔がさらに赤くなっていく。
こりゃもう傑作だった。
何時までも笑っていると、「何時まで笑ってんのよ!」と叩かれた。
痛かった。けど、糸原木の顔は笑っていた。
授業中も昨日のことで頭に入らなかった。
5時限目の理科、ぼ〜っとしていると【じゃあこの問題を、そうだな、じゃあぼ〜っとしてる大崎。】はっとして黒板をみて2秒で明確に答えた。
【おぉ、すごいな大崎。でもここは重要だから、しっかり聞いとけよ。】と一言言われた。
みんなに笑われた。
授業後、糸原木に「テツのバカ」と一言言われた。
6時限目の保体はドッチボール。
さすがにぼ〜っとしているとわけにはいかなかった。
外野は女子だが、速い。
結局最後に一人になった俺は、時間になるまでに3回転びながらもボールを避けきった。
無理をしたので、かなり怪我をした。
授業終了と同時に保険室へ。
入室すると、保体で足をくじいた糸原木がいた。
自分の怪我はひどく、15ヶ所も消毒させられた。
やっぱり「テツのバカ」と言われると思ったら、「心配したじゃん」と意外な一言。
なんだか嬉しくなり、怪我の事など忘れてはしゃいだ。