オレは…信じていた。
自分は特別な存在であり平凡な人生など絶対にあり得ないという事を…。
オレは確信していた。
自分には計り知れない才能と知性があるという事を。
『第一章 家族』
1978年、岡山の港町に三人兄弟の末っ子として生まれた。
父は地元の造船所に勤める団塊の世代。どちらかというと寡黙で、上司に上手く取り入ろうとか、おべっかを使える性格でもないから万年平社員である。
まあ、これは後になってから思う飽くまで予想の範囲なのだが…。
とにかく真面目で、毎日決まった時間に帰ってきた。ギャンブルには縁遠く、女の影も感じた事はない。
適度に亭主関白で、楽しみは一日一本だけ飲むキリンラガー。不器用なようだが、実は若かりし頃国体の柔道競技で優勝した経験を持つ頼りになる父だった。
寡黙な父とは対照的に、社交的で男ばかりのむさくるしい家族を太陽のように照らしていたのが母である。でしゃばり過ぎず、常に家族の事を第一に考えて愛情を注いでもらった。
「お父さんと僕どっかが好き?」と幼い頃聞いた事がある。「一番好きなのはお父さん。二番目があんたたち三人よ。」と即答され、妙に安心した覚えがある。