暖かい日差しが差し込む教室。授業中なのにも関わらず悠斗は教科書の一点を見つめたままだ。
毎晩見る夢。夢に意味があるわけないと占いの本など開いた事はないが、こうも毎日見させられると気分が悪い。
初めて見たたのは確か小学生の時だった。その後度々あの夢を見たが、ここ一ヶ月程はあの夢以外を見た記憶がない。
恐いわけじゃない。けれど決して楽しめるものでもなく、後味の悪さを感じていた。
授業に身が入らないまま教科書を見つめていると、突然教師が出席簿の角で教壇の机を叩いた。
自分が注意されると思い顔を上げると、教師は全く違う方向を睨んでいた。
「田上。今は授業中だぞ」
苛立ちながら生徒の机をのぞき込むと、ノートを取り返し目を通している。
「何だこれ」
呆れて溜息をつく教師に彼は小さな声でこう言った。
「ピエロですよ」
「ピエロ?」
教室中が注目しているにも関わらず公然と言ってのけた田上。
「野球の神様はお前に絵の才能までは与えてくれなかったんだな」
投げ捨てるようにノートを机に放ると、教師は壇上に戻り授業を再開した。
自分ではなかったのに落ち着かなくなってしまった悠斗。
田上は野球仲間であり親友だ。小さい頃からずっと一緒だった。何より彼は真面目で、授業中に絵を描くなんて事今までになかった事だ。
それも、ピエロなどという不可思議な物を描いていた。そこに意味はない。けれど、言いしれぬ不安が悠斗の体中を駆けめぐっていた。