先生はにこにこ笑って「ハイハイ」と言った。
「俺達って何よ、俺達って。あたしは仮病じゃないもん」
「ウッソだぁ。じゃあなんでそんなに元気なんだよ」
「あたしのは川内の所為なの!」
「そうそう、あのオヤジはキモィわよねぇ。この前なんて私に必要以上に近付いて来て……あぁ、思い出しただけで鳥肌が」
速水君はあたしと先生が意気投合してしまったので、つまらないみたいだ。椅子に座ってギイコギイコやって……あ、倒れた。
「いってぇ〜〜」
「バァカ、そんなんやってるからそうなんの」
でも本当に痛そうだ。真後ろにゴンッだもん。ちょっと可哀相……。
「大丈夫?」
「え?心配してくれてんのっ?!」
そんなにあたしが心配するのが珍しいか。言わなきゃ良かった。
「サンキュ」
ニッと笑って速水君が言った。そう改まって言われると恥ズィし……。
「こら、危ないでしょ。まったく」
先生は腰に手を当てて少し不機嫌そうに言う。
あ、そうだ。忘れるトコだった。
「ねぇ、速水君の恋バナは?」
「…………あ、私も聞きたいわ」
速水君はあたし達から遠ざかるようにして後退りした。
「待て!やっぱ駄目!!」 「……ほほう」
先生はあっちの裏状況を把握したらしい。
「ここで話しちゃえばぁ?」
にやにやして先生が速水君に迫る。速水君は頭を振って拒否している。約束はどうなったんだ!
「さっき“翔”って呼んだじゃん!」
あたしのその一言に、先生の笑みは深くなった。
「へぇ、呼ばせたんだぁ」 びくっと速水君の体が震える。
「やるわねぇ。いいわ、ご褒美として出てってあげる」
「えー?!先生行かないでぇ」
あたしは止めたが、先生はにっこり笑って出て行ってしまった。
速水君と二人っきり?つまんないなぁ。
速水君は顔を背けて黙っている。あたしに何か怒ってる?
「速水君……」
返事が返ってこない。あたしにどうしろっていうのよぉ。