成績は中の上、レベルの低い国立大ならなんとか合格できる。とりあえず国立大学に入ればいい。そんな気持ちで受験に望んでいた。そしてセンター試験前夜、「なんとかなる」根拠のない自信があった。明日に大勝負が控えているというのに、たいした勉強もせず床についた。そして日付がセンター試験当日になった頃、急に激しい腹痛が総二を襲った。いままで味わった事のない痛みだった。そのまま病院に直行し急性虫垂炎と診察された。すぐに手術となり入院する事になった。当然、センター試験は受ける事ができなかった。その夜、センター試験初日を終えた学生がインタビューに答えている映像を目にした。
「浪人か…いやだなぁ」
ため息と同時に思わず声が出てしまった。
「あれ?もしかして、受験生なんですか?」
隣のベットから声が聞こえた。
「そうなんです。急に盲腸になってしまって最悪です。もう国立受けられないんですよ。」
少し小声でカーテン越しに返事をした。
「何言ってるんですか、追試験あるじゃないですか、まだ大丈夫ですよ。」
すぐに返事が返ってきた。総二は「はっ」とした、まさか本試験を欠席するとは思っていなかったので、追試験の事なんて気にしていなかったので、頭の中からすっかり抜けていたのだ。
「ありがとう。すっかり忘れていたよ。助かった〜」思わず声が大きくなってしまった。次の瞬間、急にベットを仕切っているカーテンが開いた。
「しーっ。ここは病院ですよ」
真っ赤な唇に人差し指を当てながら女の子が立っていた。それが片岡いずみとの初めての出会いだった。