朝の6時30分。田舎の小さな無人駅。ホームは上りと下りの二本だけの本当に小さな駅だ。
ピンポンパンポン
『5分後に上り普通電車が入ります…』
アナウンスが鳴り終わる頃、彼は下りホームに入ってきた。
耳には最近買ったばかりのヘッドホンがかけられている。
今時の高校生には珍しく、少し長めの黒髪に、耳にピアスの穴も無い。
カツンッ!
何かが落ちた音がしたが、音楽を聞いているため気が付かなかった。
ふと、彼が顔を上げると、向かいのホームで手を振りながらぴょこぴょこと跳ねている女子高生がいた。
彼女はしきりに指を彼の足元に指していた。
彼は気になって足元を見ると、傘が落ちていた。
「あぁ、傘ね。」
そう呟いて、彼は傘を拾おうとした。
『電車が入ります。白線までお下がり下さい』
プルルル…
「あ!」
彼が傘を拾いあげ、彼女を見つけた時には、すでに彼女は走り出した電車の窓から手を振っていた。