丘で神田の話を聞いていた。俺が死んでいなければ信じられない話だった。
アフターワールド。死後の世界。とは言っても、死んだ奴全てがここに来る訳でもないらしい。偶然ー神田はそう言っていた。
ここに来た奴は、死んだ年齢のまま、生き続ける。寿命や病はないらしい。しかし、死のうと思えば死ねるし、殺そうと思えば殺せる。物理的な法則は皆無の世界だった。
ここへ来た人間は、何らかの職業に就かなければならない。それだけが、この世界のルール。神田は冷笑で言っていた。
「職業に就けば、衣食住は完全に保証されます。もっとも、食べなくても死にませんが」
神田は俺に仕事を紹介すると言った。それが神田の仕事だった。死んで最初にする事が仕事?アホらしかった。
「貴方には、アフターワールドが抱える最も深刻な問題を解決する仕事を紹介します」
俺が何の返事もしない内に話が進んでいく。生きてる頃と変わらなかった。
深刻な問題ー生者の世界からもたらされた死者の悩み。
高齢化社会と引きこもり。高齢で死んだ者が、仕事を放り、引きこもり同然の生活をしている。彼等は死なない。土地は無限にあるわけじゃない。死者は無限にやってくる。アフターワールドはパンクする。
俺の仕事。引きこもり老人の殺害。
この世界に道徳は無かった。俺と同じだった。だからといって、この仕事に反吐が出ない訳じゃなかった。
だが、断れなかった。仕事をしなければ死ぬ。神田の説明には、そういう意味合いが込められていた。死んでから死ぬ事を恐れた。死後に安らぎがない事を知ったから。
殺す事は恐れてなかった。生きてる頃に、二人殺していたからだ。