思いだした私は父との会話にその男のことを出してみた。
『お父さん、私、今日藤堂さんを見たよ。』
『藤堂?』
『ほら、昔お母さんが料理教室通ってた時に同じ教室で一緒に習ってた人!お父さんもお母さん迎えにいく時いつも挨拶してくれた人!』
母は私が小学校低学年の頃、私の為に料理のレパートリーを増やそうと料理教室に通っていた。
『あーあのおじさんか!どこで会ったんだ?』
藤堂さんは女の人しかいなかった料理教室に通ってた、ただ一人の男の人だったので父もよく覚えてるいた。
『電車の中でスーツ着てた。あのおじさんいい人だよねー私がお母さんについていくと、いつも笑顔でぼんたん、あめもくれたんだよねー……あれでも藤堂さんってなんで料理教室通ってたんだろー。料理見てたら上手だったのになぁ。』
『あーーまぁそれはなぁ…』
『何?』
『お前ももう大きくなったからいうけど、あの人浮気して離婚したんだよ。しかもその浮気相手が奥さんの実のお姉さんでな、長年続いてたらしく、かなりもめたらしいぞ。』
『えー!!マヂで!!!最悪じゃん!!あんな優しそうな人が??信じらんない、うわー奥さんのお姉さんとか…死んだ方がいいねそりゃあ』
『お前な、簡単に死んだ方がいいとか口にするな!!』
父は戦争を幼い頃に経験しているので本気で怒られた。
『それになー、あの人もその後色々頑張ったみたいだぞ。3人子供がいたんだがな奥さんが精神のダメージが大きくて、とても子供を育てられる状況じゃなかったんだ。だから全員ひきとって奥さんにも毎月お金を送っていたみたいだぞ。 料理教室の中で男一人で頑張ってたのも子供達に色んなおいしいもんをたべさせてあげたかったからだろ。…たしか上の子供がお前の一つ上だから今年20才だな…』
『ふーん、まぁそんぐらいやって当たり前だと思うけど。ってかお父さんやけに詳しいね。』
『まぁ料理教室に毎回迎えにいってれば噂ぐらい耳に入ってくるさ。唯一の男だったからかな、他の奥さん方のいいネタになってたよ。かわいそうに。まぁどこまで本当かわからんが。』
この時私は、今日の話しの中心にはなったが二度会わないだろうと思っていた藤堂さんにもう一度会うとは思ってもみなかった。
しかももうこの世の人ではない藤堂さんと…