「勘助。」
穏やかで重厚な声に、わたしは顔をあげた。
眼全には敬ってやまない、大事な大切なお館様。
軍議の最中だというのに、声をかけられただけでこんなにシアワセで、満たされた気持ちになる。
「はい、お館様。」
「…越後の龍を、そなたどう見る?」
扇子をぱちん、と片手で閉じて遊びながら、不敵に微笑む髭の入道を、わたしは見つめながら想った。
わたしはこの方に仕えられてシアワセだ。
一生、ついてゆこう、と。心に強く。強く。誓った。
ぴよぴよ、とひよこ目覚ましが鳴る。まだ寝ていたくてしばらく放置しておくとしまいに「こけっこー」と大音量で鳴った。
どうやらひよこから鶏に進化したようだ。
「…わぁ、うるさい」
三度目の鶏の声のあと、ばしんとひよこの頭部をひっぱたく細く華奢な手。
ひとりの女性が、のっそりと羽根布団から顔を出したまだぼさっと寝呆けている左目がつぶれた人物こそ、間宮ゆかり、本人だった。