彼女と付き合ってからの数日、思いのほか楽しかった。
俺は彼女とほとんどの時間を一緒に過ごした。
付き合って初めて、登校するときのバスが同じことを知った。
彼女に告白した次の日の朝、バスの中…
「おはよう」
思いがけず彼女に声をかけられ、彼女を見つめたまま固まってしまった。
「…おはよう」
と、とりあえず返事をしたけれど、顔には
“どうして?”
と疑問が浮かぶばかりだった。
彼女と約束したわけじゃない。
偶然なんだろうか?
そんな思いを巡らしてるのを知ってか知らずか、彼女は当たり前のように俺の傍に場所をとった。
ふいに、良い香りが鼻をくすぐる。
初めて嗅ぐ香りではない。
いつもどこかで感じていた香り。
彼女に視線を移すと、彼女は俯いて俺の胸元を見つめていた。
俺の視線に気付いたのか、彼女がふと顔をあげた。
目が合うと、どちらからともなく照れ臭くなって笑みを浮かべた。
その瞬間、胸が温かいもので満たされた。
“愛しい”
この彼女がとても愛しくなった。
お互いバスの中ではほとんど会話を交わさなかった。
ただ、それだけでも俺たちにとって、幸せな時間だった。