銀河連合七二二年・宙際連合第二七回総会が、オルドロス星系第二惑星デマデスにて開催され、その場で選出された第一五代総主宰(代表)スリート=ガムハ氏の所心表明演説は、挑戦的かつ挑発的な物だった。
『本来ならば宇宙は一つであり、人類は一体であるべきである。我々の従うべき秩序・規範・制度は、この宇宙を産み出し、動かしている大原則・言わば宙理の大法(グランドダルマ)に基づく物だ。
然るに今や全ての人類が、国家が、大きく二つに分かれ、お互いに抗争し、あるべき姿を、秩序を乱している。それは我々中央域文明圏と、それに抗う非文明勢力の二つである。
中央域文明―そして、それを統治する宙際連合こそ、この銀河に王道を打ち樹て楽土を建設する使命と資格を有する唯一の勢力なのだ!
故に我々はまつろわぬ夷狄を討伐し、征服し、これを正しい教えに導き淳風美俗の良民として王化の恩恵に浴させねばならない―\r
諸君、これはただの征服ではない。又、聖戦でもない。何故ならば彼等はこれまでの歴史と規範の混乱によって本来の教えを知らないが為に中央域文明から離れ、牙を剥いている同胞なのだから。
彼等に接するに我が宙際連合は、憤激や復讐ではなく、温情と慈悲の精神を持たねばならないのである』
この演説は、主要対象とされた航宙遊牧民族諸勢力からは爆笑を以て迎えられ、又、宙際連合内からも、轟々たる野次の洗礼を喰らわせられた。
事実、演説が成された総会初日がたまたま旧太陽暦で四月一日に当たった為にネット集合体では《エイプリルフールの宣戦布告》と名付けられ、当時どちらの陣営でもほとんどの市民が、何か巨大な冗談なのだろうと誤解した程だった。
だが、粛々と進められた総会では、連合中央の権限が強化され、予算が増額され、《宙際安全保証債》の発行が容認され、航宙遊牧民族を除けば初となる恒星間機動戦力の建軍が予定される等、それが決して冗談ではない事が次第に明らかになり始めた。
ある意味不自然なまでの迅速さと順調さで総会は改革案の大半をそのまま承認し、僅か半年の開催期間中に宙際連合は、侵略し、闘い、その為に傘下の諸国を強力に統御し強権を振るえる機構へと変貌を遂げた。
宙際連合は航宙遊牧民族との軍事衝突を決意し、この戦いを《征夷王道化戦争》と自ら称した。