双龍
「呂、ルーさん、ご老人!まだ着かないんですか?」
山際晋は紅龍のたてがみに必死にしがみつき、僅かに先行して空を駈けている青龍の背にむかい、声を張り上げた。
「あー‥もうすぐじゃよ、あの崖の向う側辺りじゃ」
白い髭を風になぶらせながら、ルーと呼ばれた老人は小手をかざす様な仕草で前方の断崖をすかし見る。
身をくねらせて、水中を泳ぐかの如く大空を飛翔する『龍』など、晋は乗った経験は流石にない。
鉄の様に硬いウロコが滑り止めの役目を果たしても、向きを変える時に食らう横風に、吹き飛ばされそうな思いをさせられる。
「さぁーっと、ご到着じゃ。 チンロン(青龍)、ホンロン(紅龍)、降下せんかい!」
急降下を始めた紅龍の背に身を寄せ、山際晋は『苦行』の終わりが来た事にホッとする思いでいた。
「ほれ、起きんかい! 全くグウタラな虎じゃの」
呂(ルー)仙人は、懐で眠りこけていた猫を白虎の姿に戻すと、頭を軽く叩いて起こしにかかった。