彼の恋人

高橋晶子  2007-11-28投稿
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7月になると、3年生は本格的に受験モードに突入する。志望校はほぼ固まってきて、入試対策は志望校に的を絞っていく。だが……。
「どうしようかなぁ。第二志望」
暁は天文学を学びたい一心で、東北大一本に絞っている筈である。そこにみくの横槍が入る。
「何も天文学に拘らなくても、興味の対象を広げてみればいいじゃないの?」
「お前……変わったな」
「今の私は親の言いなりじゃないわ。大体大学に行ってまで親の金に甘えようと思う事自体甘ちゃんなのよ! そこに気付いたから、大学は家族からの独立のために頑張ろうと思えてきたの」
勿論みくが大学を目指す理由は変わっている。親と博文の気を引くためではない。自分自身のために大学を目指すのだ。
「真瀬は国公立大受けるんだろ? 地元かい?」
「お茶女の文教と奈良女の文学」
暁の表情が一瞬強ばったのも無理もない。桜庭では、お茶女や奈良女を受けるような女子生徒は「従順な人」とは言えないからだ。だからと言って、今更自分を安売りする訳にはいかない。

泉だって修学館を狙っていたプライドがあるから、志望校のランクを下げて安売りしたくないのだ。彼女の許容範囲は成成獨國武まで。それらと同レベルの明治学院大経済学部が第一志望だったりするが。
みくが自身の志望校を泉に告げると、
「嘘!? 暁ちゃんに強ばられた? ったく保守的な体質に毒されるとろくな事にならないね。どうして女が男に依存しない生き方を選んで、妬まれなきゃならないのかしら?」
と、暁の反応を疑う。
みくは暁の本心を見越したかのように、こう切り捨てる。
「そういう人とは関わり合わない方が身のためね。きっと男の後ろで三つ指をつくような女にしか見向きされないのよ」
保守的な男には保守的な女がお似合いという事か。しかし、保守的な価値観に拘ってきた報いとして自立した人間に縛られるのも、また現実なのだ。
泉が溜め息混じりに後悔の念を押す。
「今更ながら修学館に見放されたのが間違いだったかもね、私達」

後悔しても遅すぎる。過去の失敗を引きずってもどうにもならない。とにかく今は前を進むしかない。
大学こそ希望通りの道を踏み締めるために。

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