「1機?妙だな。SIFに応答は?」
「ありません」
「全機停車して周囲を警戒。ヘアウッド、不明機(ボギー)をカメラで捕捉して画像を全機に送れ。急げよ」
「諒解」
隊長の舌打ちがヘッドホンごしに聞こえる。
「ったく、こっちは仕事帰りだってのに…、…?准尉、残弾は?」
「20mmAPが160発、ATM(対戦車ミサイル)は1発、後はカラですよ。…モニターしていないんですか?」
隊長機には小隊機の機体状況や乗員のコンディションをモニターする機能があったはずだ。
「してないんじゃない、できないんだよ、さっきから。准尉と准尉の機体だけモニター出来なくなっ―─」
「中尉?」
唐突に通信が途絶え、代わってノイズがヘッドホンから溢れ出す。通信機の故障?いや、通信妨害(ジャミング)か?
『…ノ…ヲ…キ…サイ』
「!?」
ノイズの奥底から聞こえたその声は、死にかけの老婆のようでもあったし、病床に臥す少年のようでもあった。
無論、どちらも我が2131小隊には、いない。
『ワ…………エヲ…キナ……』
ノイズが酷く何を言おうとしているのかまるでわからなかったが、聞き取れた音素は意味を喪失したその分、怨念でもこもっているのではないかという強烈さをもって脳髄の奥にまで侵入してきた。
今までに味わったことのないような吐き気と頭痛と酩酊感。
俺は自制することもままならず、くの字に曲がって嘔吐した。
意味不明の呪詛はノイズごとボリュームを上げ、俺の意識をどろどろにシェイクする。
「……ぉ」
『…タシ…コ……キ…ナサイ』
「ゃめ…ろぉ」
『ワタ………エ…キキ………』
「………ぁ……」
必死の思いでHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に手にかけ、投げ捨てようとしたが、遅かった。
『ワタシ ノ コエ ヲ キキ ナサイ』
俺は確かに、その『声』を聞いてしまった。