それは恐怖に引きつってはいたが、確かに愛くるしい笑顔だった。
シラトリは微笑を浮かべたまま、クロオに向かって両手をいっぱいに広げた。
まるで久しぶりに帰ってきた恋人を抱き締める様に・・・。
驚きの余り一歩後ろに下がったクロオは確かに見た。
シラトリの目に光る涙を。
彼女は泣いていた。
・・・泣きながら笑っていた。
目前にせまる死に叫びだしたくなるほど恐怖を感じながら
気も狂わんばかりの絶望の縁に立たされながら、
それでも逃げだそうとせず、「死」に向かって懸命に両手を広げて笑っていた。
「ぁぁおぉぅぅ・・・!!」
クロオの洞穴のような口から、声にならない叫びがもれた。
クロオはそれまで感じたことのないとてつもない恐怖に捕らわれ、半狂乱になった。
大鎌のような右腕がしなり、手当たり次第に家の中のものをなぎ倒したが、
クロオの感情の無い真っ黒な目は、恐怖で見開かれたまま、シラトリの笑顔を見つめ続けていた。
そして遂にクロオはその洞穴のような口をかっと開け、
自分に向かって手を差し伸べているシラトリを掴むと、頭からボリボリと食べた。
・・・すっかり黒く染まったシラトリの家の床には、
クロオが食べ散らかしたシラトリの白い骨の粒が、
まるで夜空に輝く星の様に静かに散らばった。