青海の吹奏楽部はそれなりの実力派だ。基本的に平日は練習漬けで、休日返上の練習は当たり前である。
夏休みのスケジュール表に目を通した祥恵は憔悴し切っている。多忙な部活動を優先するために、美大の受験対策は通信教育で行なっているが、びっしり詰められた練習日の連続に溜め息をついてしまった。
「美大に落ちた時の妥協策を考えようかなー」
州和が祥恵の呟きに反応するように問い詰める。
「黒崎さんは確か国公立狙いだよな?」
「うん、富山の芸術文化と金沢美術工芸ね」
「どっちも落ちたら?」
「専門学校だって親に言われた。大学の通信教育と併修出来るとこはあるけど、金は掛けたくない。關ちゃんは国公立大だから博文と同じ大学を受けるんだよね?」
「横国か……教育人間科学部だけど」
どちらかというと、修学館は首都圏や関西圏の大学を狙う人に好まれ、青海は地元志向の人に好まれる傾向がある。桜庭はあからさまに地元志向だが、修学館に落ちた生徒が増え過ぎたお陰でその傾向は薄れている。
運動部を引退した亜鶴と彩子は受験モードに入る。博文、裕介、臨、千聖も同様だ。
予備校でそれぞれの志望校を言い合う。
博文は
「青学の国際政経を狙うつもりで明治学院の経済を滑り止めにして、本命は横浜国立の経済だな」
と即答する。
実は州和と1、2を争うくらい優秀な彩子は
「私は富山の薬学。金沢の薬学にもチャレンジしたいな」
と夢を馳せる。
亜鶴は
「悪かったね。近畿大農学部で。でも栄養士を目指せる共学大を調べたら、そこの食品栄養学科に行き着いたからいいでしょ?」
とひがみっぽく言うと、裕介は
「関関同立と名古屋を滑り止めにして、本命はやっぱり京大」
と言ってのけ、千聖に至っては
「早慶上智の内一つでも受かってればラッキーかも」
と言って亜鶴と彩子の怒りを買う。
「むかつくー! この理数科コンビ!!」
と彩子が憤るのも無理もない。裕介と千聖は理数科の中では1、2を争う成績で、学年全体でも10番以内という優等生なのだ。博文も学年で10番台の成績で、決して負けていない。
受験生の夏はこんな調子で始まった。
恋は休息モードに……。