「んでも、それだけじゃない気がする…。」
生々しい、あの感情。今さっき、自分が受けたかのようなあの感動、あの忠誠。そして、強い憧れにも、焦燥感にも似たなんとも言えない気持ち。夢にしてはリアルすぎる。
ぼんやりしだしたゆかりに「ゆかちゃん、最近レポートで忙しいって言ってたじゃないか。…ちょっと疲れてるんだよ」
そう、叔父の尚孝は苦笑した。
そうかなぁ、と呟くと、ゆかりはかぶの浅漬けをひとくち齧った。
今日も程よく漬かっているおいしい漬物の味も、なんとなく遠くに感じた。
―暗闇から少年の声がした
くすくす。
ふふふふ。
あやつがいたよ。
ほんにのう、あにじゃ。…あれまぁ女だよ弟。
ほんに、おんなじゃ。
女に生まれ変わったか。 おんなじゃ、おんな。
ふふ。ふふ。どう転ぶ?
あやつがおんな。どうす るじゃろて?
甲斐の武田はどうするか。 たのしみじゃ。
ほんにの。
ふふ、ふふふふふ。
くす、くすくすくす。
―暗闇に、ふたりの笑い声だけが、後をひくように残った。