いきり立つ悠斗の声が頭に響きこめかみを押さえた。
「大体お前名刺もないのにどうやって来たんだよ」
「覚えてたんです。それより一刻を争うんですよ!」
「お前さー、俺が暇人だと思ってない?依頼は順番にこなすのが俺の主義だ」
とても依頼がたて込むような事務所には思えない。まして所長が飲んで昼まで寝ているような所だ。
依頼を受けるつもりがない、悠斗はそう判断し踵を返した。
「もういいです。アンタに頼もうとした俺が馬鹿でした」
「そうそう。俺の親切無視して断ったのお前だしな」
「こんな事務所潰れちまえ!」
「不吉な事を……」
ドアノブに手をかけ出て行こうとする悠斗を、また夢路は呼び止めた。
「あ、お前に対処法教えといてやるよ」
何を今更と思ったが、人間にどうこう出来る問題じゃない。それを理解していたからこそ足を止めた。
「あいつらに何を言われても感情的になるな。それと……」
「何ですか」
「認めちまえ。それも毅然とした態度でな」
悠斗には何を言っているのか理解出来なかった。まわりくどい言い方をして馬鹿にされてるとさえ思った。
扉を開けると皮肉を込めて力いっぱいに扉を閉めた。
自分が対処してどうこう出来るのであれば既にそうしている。けれどこれは田上の問題だ。彼の夢に自分が干渉する事など出来るはずがなかった。
何を言われても感情的になるな?田上の夢に入り込めるのならば文句の一つでも言ってやりたいくらいだった。
階段を駆け下りながら田上の安否が気になり、帰る方向とは反対の道を選んだ。かつぎ込まれた時は絶対安静で見舞いすら出来なかったからだ。
田上が目覚めたらちゃんと話をしよう。あの時話を聞いてあげられなかった事を深く後悔した。
今度こそ親友の目を覚まさせてやろうと、歩く速度を早め悠斗は病院に向かった。