紅い棺桶人形は地面を舐めるように滑空し俺達に迫ってくる。相対距離は残り1500。
攻撃命令を待たずしてヘアウッド機からAAM(対空ミサイル)が放たれた。
音速を超えて突撃するAAM、しかしボギーはバレルロールでこれを難無く回避し、そして何事もなかったかのように増速。残り1200。
「速いッ!」
「無闇に撃つなッ!引き付けて狙え!」
中尉の叱責がとんでいる間にも、糞ったれボギーとの距離はみるみる縮まっていく。距離1100。一般的に十五式搭載の20mm機関砲でCDが撃破可能となる距離まで、あと100。
俺は武装をガン・モードに切り替える。照準はオート。マニュアルで当てる自信は無かった。
ボギーを捉えて早々にレティクルの色がグリーンからレッドに変わる。イン・レンジ、有効射程圏内。
「撃てェェエッ!!」
中尉の怒声を待ち侘びていたかのように各機から一斉に殺意をのせた弾丸が放たれる。
四つの砲身から毎分1000発のスピードで溢れ出る砲弾が不可視の壁を作り、敵機の進行を阻んで、遂には粉砕する──そのはずだった。
「なッ!?」
ボギーは必殺の集中砲火を、何ら意に介した風でもなくさも当然であるかのように、慣性の法則を無視した急制動で、『一つ残さず』避けきってみせた。
その動きには一片の迷いも無駄もなく、客観的に見れば美しく幻想的で夢のような光景だったが、それは俺達にとって悪夢以外のなにものでもなかった。
悪夢の突貫は止まらない。
500、300、100、死刑執行までのカウントダウンは無慈悲な速度で刻まれていく。
怒声はいつの間にか悲鳴変わっていた。
そして──、ボギーとの相対距離、零。
殺戮が始まった。