彼の恋人

高橋晶子  2007-12-04投稿
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佳純の中性的な声質に違和感を抱いていなかっただけに、祥恵の証言は俄に信じられなかった。臨は半信半疑で聞き返す。
「佳純さんが女じゃないって、まさか……」
今度は千聖が証言する。
「佳純先輩は女の心を持つ男なのよ。祥恵が言ってた秘密特訓はホルモンの力に頼らないで女の声を手に入れる訓練で、よく喉を傷めて喀血して先生が救急車を呼んで入院させる騒ぎになったんだ」
男共は一気に血の気が引いてしまった。千聖は話を続ける。
「男になりたい女がフォークや金串で喉を突き刺して、男の声を手に入れようとするじゃない? それと同じ。入院先で性同一性障害と診断されたのがラッキーだったかも」
孝政が疑問を祥恵にぶつける。
「ムダ毛とかどうしたの?」
「ムダ毛が生えてこないように、ドラッグストアでローション買って朝晩身体中に塗りまくるなんて朝飯前! 乙女系で男臭いあんたとは違うの!」
凄い剣幕で返されてしまった。血の滲む様な努力をしてまで女になろうとしている佳純を、毛むくじゃらの孝政と一緒にされたくない祥恵だった。

だが佳純は、博文達の前では自らの障害を口にしていない。堂々と心の性で日々を過ごしているなら、敢えてカミングアウトしない理由はあるのだろうか?

ファミレスを後にした博文は3ヶ月前の落書きを思い起こした。「本当の自分に気付いて欲しい」のは、佳純の心の叫びだったのではないのか? 最初の落書きに書き足した顔文字が佳純の心情を最も表しているとすれば、この3ヶ月間、佳純と落書きし合っている事になる。
佳純の秘めた苦しみを知った今は、佳純に恋の質問を振った事を後悔している。余計に自分の首を絞めてしまったら……。

週が明け、何事もなかったように登校した博文は、自分の机の落書きに目を留める。どうやら心配は杞憂だったようだ。

キミが大学に受かった時に教えてやるよ。

大学を受ける時は学校に来ないのに、勿体ぶっている回答だ。志望校が全て不合格だったら永遠に解けない謎かも知れないのかと思うと、期待に応えるしかない。
今は受験勉強に励む事が大事だから……。

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