あと一ヶ月で女子部長とお別れ出来るまできた。あと一ヶ月だけ辛抱したらいいだけなんだ。そうしたら、尊敬出来ない人間を相手にすることもなくなるんだから。
松風もわかっているのだろうか、女子部長にはニンジンがないと反応を示す事はなかった。それも、俺にとっては救いだった。
俺と松風の間に入れる人間なんざいない、これだけが俺を部活に留めている杭である。
とは言っても、この二ヶ月は精神を病むに十分な期間だった。
電話で兄達の声を聞く度に涙は溢れるばかりで、なんとか泣いていないふりをしていたけれど、あの兄達には見破られていたような気がする。
そんな毎日に耐え続け、女子部長の引退日が決まった。その報せを受けた先輩と俺は、ハイタッチまでして喜ぶくらいだった。その様子をにこやかに眺め女子の先輩。
また、あの時みたいに楽しく練習しよう、遅れた分を取り戻そう、三人でそう誓ったばかりなのに。
知らされたのは絶望でしかなかった。
−松風、売られることになったから−
女子部長達、四年の引退日のたった一週間後だという。
冗談、でしょう? なんの為にここまで耐えてきたんだ。
どうしても納得いかない俺は、監督と話がしたいと訴えたが、そんな願いは聞き入れられることはなく、決定はくつがえらずに松風は売られることが正式に決定した。結局、俺は大事な場所で何も出来ないまま終わってしまうしかない。
悔しくて、歯痒い思いだった。
松風は今放牧中で、一人で遊ぶ事に飽きれば様子をみている俺達に近寄ってくるし、俺が中に入って歩けばその後ろを着いて来る。
軽く走れば、松風も走って追いかけてきては、俺に頭をこすりつけて甘えてもくるんだ。
もう、この日常は消えてなくなる。