「世の中には、世の中にはうまくいくやつといかないやつがいるんだよ」
わたしが太郎にこう言ったとき、奴は嫌な顔をした。
私と太郎は中学校の頃から同級生だった。奴は学生服の似合う普通の男子だったが、私は逆に普通じゃなかった。まず学校に行かなかった。なぜだかは今もよくわからないが学校にはあまりいかなかった。いわゆる不良だったわけでも、根暗だったわけでもない。私はごく平均的な女の子だったと思うし、今もそうだと思う。友達も普通にいたし、まともに笑っていたし、泣いていた。でも学校にはあまり行かなかった。太郎と私はその時はまだ友達じゃなかった。
高校に入ってから、私は毎日学校に行っていた。一日も休まなかった。太郎とは同じクラスだった。太郎はクラスの中では少し浮いた存在だった。太郎はあまり学校にこなかった。友達はいたけれども少なかった。あるとき友達とあまり学校にこない太郎を話題にあげたことがあった。太郎は学校にこないでなにやってるんだろう。友達はまったく興味がないみたいだった。私は気になっていた。
高校二年生の六月だったと思う。梅雨の真っ最中で、朝から雨が降っていた。その日太郎は学校にきていた。次の時間が体育で休み時間、友達と体育館に行こうとしたとき、教室に忘れ物をしたことに気付いてひとり戻った。
すると、教室には一人部屋から出ようとしていた太郎がいた。
わたしは太郎にぶつかりそうになった。
私が謝ると太郎も謝った。
すれちがって太郎が教室をでていこうとしたとき、私は奴にたずねた
「ねえ、いつも学校きてないときさ、なにしてんの?」
奴は私の方を見て笑って
「空をみてるんだ。」
と言った。
変にくさい奴だと思った。でも興味がわいた。
太郎は一年生のとき、サッカー部に所属していた。あいつは中学校のときもサッカー部に入っていた。でも今はやめてしまっているらしい。太郎はサッカーがうまかった。そんな太郎がサッカー部を退部したという噂は、全く関係のない私にも伝わってきた。噂によると太郎は先輩と殴り合いの喧嘩になり、退部させられたらしいのだ。太郎が学校にあまりこなくなったのはそれ以降だった。
きっとそれで傷ついたからなんだろう。