僕は今、水溜まりに向かって…手をふっています。
人生どこで何が起こるかわかったもんじゃありません。
たったの数秒で、気力、意識、人生観さえも変わってしまうことだって、この世には、起こりうるのだと…
あの夜…気づかされたんです。
"…あの夜"
煙草を買いに外に出てみると、うっすーらと雲の陰から綺麗な月が顔を出していました。
雲の動きが、冬のアスファルトに写るくらいの、明るい明るい夜でした。
空にはシリウスが、月の光に負けまいと白くギラギラ輝いています。
電灯もない路地を右に曲がり、空を見上げながら歩いていると。
「あぶないよ……。」
「あぶないよ……。」
と薄気味悪い声がして、立ち止まりました。
丁度、雲の影が僕の真上を横切ろうとした時です。
暗い暗い路地の角から、ふっ…と月明かりに照らされて、一人の婆ちゃんが現れたんです。
「足下を…、見てみな……。…。」
突然現れた婆ちゃんに驚いた僕は、硬直したまま怖々足下へ視線をやりました。
そこには、丁度人がスッポリ入る程の大きさをした……、
水溜まりがあったんです。
(な、なぁんだ、、水溜まりか?。。)
水溜まりにはまるのを、止めてくれたのだとホッとしました。
(でも何でこんな所に水溜まりが??)
ここのとこずっと天気もよかったし、雨も降っていません。
(まさか…この婆ちゃんのオシッコ???!
で、でなきゃこんな所に水溜まりなんてできるわけがない?…。。)