思春期を向かえる男子にとって、「力」こそがステイタスなのだ。
中学二年の俺にとっても状況は同じだ。クラスでは早くも誰がこの中で一番の腕力をもっているかを探りはじめていた。
俺はすでに誰かに負けていた。その誰かも負けた。まさに論外、そんな言葉がお似合いだ。
最後に残った二人がいる。原田と高橋だ。すべてにおいてライバル関係にあるが、原田の方が若干上回っていた。
「原田の奴、うまく逃げたな」
帰り道で高橋が言った。
逃げてはいない。もちろん高橋も。二人の対決は担任が現われたことで惜しくもながれたのだ。 「ねえ、どうしたら高クンみたいに腕相撲強くなれるの?」
俺は聞いた。
「鍛えるんだよ、それしかねえだろ、そんなこともわかんねーのかよ。だから女に負けるんだよ」
そうだ、女に負けたんだった。
「だけど、原田の奴ほんとにムカツクぜ。なんか冷静っつーかなんつーかよ、一番ってものにこだわってねーみたいなよ」
高橋は怒り口調だ。
「でも、そういう高クンの勝負にこだわってるとこは尊敬できるよ」
つづく