人をこんなに好きになった事がなかったんだーー君と知り合うまでは‥‥。
とある田舎町で俺は育った。小さい頃から目立たず、周囲から大人しい子だと言われ育った。いわゆる普通のどこにでもいるガキだった。
道立の普通高校を卒業してからはバイトを点々とし、不安定な生活を続けていたが、20代もなかばになると、些か将来に不安を感じ始め、定職を探した。しかし現実は厳しく、家賃が払えず、ネットカフェのナイトパックを利用しながらのちゃらんぽらんな生活を続けてきた俺を採用してくれる企業は、なかなか見つからなかった。ネットカフェ難民か‥‥。今年の流行語大賞になるんじゃないか‥‥。今の俺にはそんなの関係ねぇ〜‥‥。ハハ‥小島よしおか。ナイトパックは10時からーー。それまでどこで時間を潰そうか。ふっと前方へ視線を移すと、おっ、パチンコ屋があるじゃん。もちろんパチンコをする金がある訳がなかった。今はただ、歩き疲れた足を休める暖かい場所があればいい‥。12月も半ば。北海道の冬は寒さが厳しい。氷点下10度を超える事もしばしばある。吸い込まれる様に店内へと入った俺は、取り敢えず休憩場のTVの前のソファへ腰を掛けた。生き返った。店内は、とてつもない異様な熱気に包まれていて、すっかり冷え切った体には天国に感じた。『いらっしゃいませ。』店のアルバイトの女の子の笑顔が、冷え切った心には女神の様に思えた。かわいいコだな。タバコに火を点けながら、10時までをどうやり過ごそうかと考えていた。財布の中には2万5千円。派遣会社に登録し、日雇いのバイトで稼いだこの金で、次のバイトが見つかるまで凌がなくてはならない。食事はカップ麺のみ。10日は過ごせるなーー。そう言えば最近スロを打ってないな。ちょっと店内チェック。へぇー、流石に5号機全盛時代だな。4号機に慣れ親しんだ俺には物足りなさを感じる。ざっと店内を1周したところで、『いらっしゃいませ。』あ、さっきのコ。飛びっきりの美人と言う訳ではないが、清潔感のある、清純そうなコだった。石原さとみ似の彼女は、客と擦れ違う度、飛びっきりの笑顔で『いらっしゃいませ。』を繰り返していて、そんな彼女を知らず知らず目で追っている自分に気付いた。