「…恨んでますか?」
私は、聞いてはいけないことを聞いた。
「愛しています。いまでも。奥様や、ご家族を恨む気持ちもなく、彼の愛していたご家族の悲しみもわかります。」
「そうですか…幸せでしたか?」
「もちろんです。幸せな恋のおわりかたをしました。」
「軽蔑はしませんか?彼を」
芸能レポーターのように、質問を投げ掛けた。
「なぜ?」
彼女がきょとんとして答えた。
「結婚しているんですよ?」
「結婚しているのはわかるけど、ご家族への愛と義務はきちんと果たしていたわ。逆に聞くけど、一人の人間しか愛してはいけないの?」
コーヒーをまた口に含み、さらに続けた。
「不倫をするひとが非難されるのは、義務をはたさないからよ。愛のキャパの大きな人なら、たくさん愛して問題ないんじゃないの?そんな彼を愛して後悔はないわ」
さっきまでの彼女とは違う、自信にあふれた彼女の答えは、私の中の『何か』を壊していた。