厚手のジャンパーでも、うそ寒い芯までは暖められまい。
冬の夕暮れ、民家から漂う懐かしい匂いに身を委ねながら、輝り始めた自動販売に影を落とした。
今は五月蝿い家電の雑音やけたたましい電子化された声もない。殊に民家から流れるテレビの音声は、不調和音のそれとは殊更違い、心地良い。
この時間この場所が、一日の中で唯一幸せを味わえるのだ。ただ、幸せと言ってもそれは遠い上に他人のもので、それをこそこそと拝借してるにすぎなかった。
しかし、それも最近飽きてきた。猫のように毎日変わり映えのない生活こそが幸せと感じられたらどんなに倖せだろう。
影は自動販売機を伝いつたい、いつものように自宅に潜み入った。