翌朝、郵便局から女性の家に来てくれと電話があったと伝えられ、青年は急いで向かった。
しかし、女性の出迎えは無かった。
いつも迎入れてもらっていたので、チャイムを押すのは初めてである。
玄関の戸が開くと、そこに現れたのは見知らぬ女性だった。
「母がお世話になったそうで…ありがとうございました。」
「娘…さん、でしたか。」
「はい…親切な郵便屋さんによくしてもらってると、それはもう嬉しそうに言ってました。」
「とんでもない…よくしてもらってるのは僕のほうです…。」
「実は…見ていただきたい物があって…此処ではなんですので、お上がりください。」
人の良さそうな青年に、少し悲しげな表情を浮かべた娘は、唐突に切り出した。
廊下を歩く青年の足は進まなかった。
娘の表情と、過去形の語尾に、すべてを悟ってしまったのだ。
「母は…亡くなりました。」
「…」
茶を差し出す娘から、青年の聞きたくない言葉がついて出た。
「心臓だそうです…わたしが見つけた時には……もう。」
青年は昨日の事を思い出し、後悔の念にかられた。
「きのう、元気の無さに気付いてたのに…無理にでも病院へお連れするべきでした…すみません!」
「え?…きのうって…母が亡くなったのは四日前ですが…。」
「そんな…いや確かにきのうハガキを手渡して……。」
「ハガキ…。」
娘はハッとして、眼を潤ませた。
「母は、きっと最期にお別れをしたかったのでしょう…あなたのことをそこまで想って…お母さん…ううっ。」
こらえ切れず、鳴咽と共に娘の目から涙が零れ落ちる。
青年は、それほど自分のことを想ってくれてたのかと胸が詰まった。
しかし娘の言う想いと、
恋愛経験の少ない、青年の思う想いは違っていた。
そう、女性は青年を、一人の男として見ていたのである。
そしてこの後の展開が無ければ、女性が青年の前に現れる事は二度と無かったで有ろう。
娘は、真新しい封筒を青年の前に差し出した。
「…これは?」
「母が…あなた宛てに書いた手紙です。」
「拝見していいですか。」
「読んでやってください…。」
「拝見します。」
その手紙には、青年への秘めた、熱い想いが綴れていた。