20人程の客が遠巻きに輪を作り、4人の男達を囲んでいた。店主のテオは諦めたような目でカウンターの中から成り行きを見守っている。
「あと一つでテメェとだぜローグ。死にたくなけりゃ今ここで命ごいするんだな。このバンガ様の従者にしてやるぜ。なんせオレ様は慈悲深いからよ」野太い声で言って笑ったのは、輪の中心にいる四人のうちの一人で、熊のように大きな男だった。無数の傷に覆われた上半身は裸で、頭には毛がない。見るからに凶暴そうな顔つきをしている。
その傍らでは、遊び人風の小柄な男がニヤニヤ笑いを浮かべながら二人の男の方を見ている。一人はローグと呼ばれた長い銀髪の男で、顔には表情が無く、銀色の髪に隠れた眉も銀。その下の瞳の色は碧く、左の瞼の上には眉から頬に懸けて縦に傷があった。端正と言ってよい顔立ちと傷、そして冷やかとさえ見える無表情さが一種の凄味を感じさせた。
引き締まった体には、夏だというのにコートを羽織り、その背中にはドクロの刺繍がされてた。見る者が見れば即座に彼の異名を頭に浮ばせるであろう。
ドクロは牙を持ち、不思議な形の鞘から、半ばまで抜かれた剣をくわえていた。左目のところは縦にひび割れている。
もう一人は黒い短髪ではしこそうな目をした男だ。一見華奢そうな体だが、ピッタリとしたシャツには、全身に発達した筋肉のラインが浮き出ていた。
「ほざくなよバンガ。お前ふぜいがローグの兄貴の相手になると思ってんのかよ。」短髪の男がバカにしたように言った。
「オメェには喋ってねぇんだよアレン。闘士だったくせに、ぶるってローグなんぞの従者に成り下がった奴が偉そうに言うんじゃねぇよ。」ニヤニヤ笑いを張り付けたままの小柄な遊び人が罵った。
「俺もお前には喋ってないぜ。トゥルカ。なんならそのニヤケた面のまんまあの世に送ってやろうか」低い声で言ったアレンは一歩足を踏み出した。