家族模型〜演じる私〜

菅野悠  2005-10-19投稿
閲覧数[623] 良い投票[0] 悪い投票[0]

その日の昼間、いつもの様に、母親から一方的に、産まなければ良かったと、罵声を浴びせられた。

私は、キレた。
2年前と同じ様に……。
自分でも気付かない内に。刃物を手にした夜。
このまま、此処に居続けたら殺ってしまう……。
そう思い、荷物をまとめるとすぐに家を飛び出し、近くのファミレスに入り、仮眠を取ろうとしたが、興奮からか全く眠る事が出来ない。
夜が明けるとすぐに、駅へと急いだ。
駅に着いてから、18駅先までの切符を買い、電車を待った。
電車に乗り込み、興奮と緊張が一度に解けたのか、眠気が襲ってきた。

途中、リアルな夢を見た。
私は、母の心臓に向かって一回。ナイフを引き抜き、生温い血糊を浴びながら、更に首を刺した。

《あぐぅっ……。》

始めに、心臓に刺した時、絞りだされたうなり声を、あげた。
「あき……。」とも聞こえた様な気もしたが、気にせずナイフを引き抜き首を刺した。
母親の目からは、紅い一筋の涙が流れた。
なんだか、すがすがしさを感じる。
段々、血の気が引いて蒼白くなる顔を見て笑みを浮かべる自分が見えた。

毎日、部下の教育、得意先への接待。休む間も惜しんで働き続ける母の姿。
義理の父親の下から、帰ってきた時、確かに私に言った。
あんたが居ると私が不幸になる。
物心付いた頃から、名前を呼んで貰った事がない。

亮《アキ》と名前をただ呼んで欲しくて一生懸命、よい子を演じ続けた。
私は、そこら辺の下手な女優より、日々の中で、いい演技をしてたと思う。
少しでも、一瞬でも母からの愛を感じたくていつだって、ニコニコ笑ってた。本当は、楽しくなんかないのに。
傷口からは、生温い鮮血が止めどなく溢れだし、真っ白いパジャマを赤く染めていた。綺麗な色だった。
自分は、もう一度母の子宮へ帰った様な錯覚に陥った。よい子を演じる臆病な私が、抹殺され、新しい私が生まれた。
それと同時に夢の中の彼女は、激しい虚しさを感じ、笑みを浮かべたまま涙を浮溢した。

そこで目が覚めた。

気付くともう下車する駅の近くまで電車は走っていた。

i-mobile
i-mobile

投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 菅野悠 」さんの小説

もっと見る

ファンタジーの新着小説

もっと見る

[PR]
関東近辺のお葬式
至急対応も可能!!


▲ページトップ