手紙を読み終わった青年に困惑は無かった。
むしろ、女性の気持ちを想うとまた胸が詰まった。
「もう一つ、見ていただきたい物があるんです。」
そう言うと娘は、輪ゴムでとめた分厚いハガキの束を二つ差し出した。
「母の書斎にありました。手紙と一緒に…母は、そのハガキの入った机の引き出しに手を掛けたまま…。」
青年は不思議に思った。
片方の束のハガキには、宛ては有るが消印が無い、裏を見ると白紙だった。
「あなたに逢いたい一心で…母は自分自身にハガキを………。」
「これ全部…ください…。」
手紙とハガキを抱え込み、青年は泣き崩れた。
次の朝、青年がいつもの様に仕分けされた郵便物を確認していると、あのハガキが混ざっていた。
消印も正規のものだったので、理解できなかったが届けるしかない。
家が近づくと、背の低い垣根の向こうに人影があった。
しかし、それは娘ではなく女性だった。
青年は切なかった。
ハガキを手渡すと、いっそう青白く力無い微笑みを浮かべて、何も言わずに消えていった。
仕事を終えてアパートに帰った青年は、すぐにハガキを調べると、消印の無いハガキが一枚減っていた。
二日後、ハガキがまた混ざっていた。
この日の女性は、腰まである垣根から身を乗り出し、待ちきれない様子だった。
その顔色はどす黒く変色し、凹んだ眼をぎらつかせて、微笑むというよりニタついてみえた。
さすがに優しい青年も、背筋に寒いものが走り、恐怖を感じた。
次の日から青年は、体調不良を理由にして仕事を休み、アパートに引きこもった。
恐怖心も有ったけれど、行かなければ女性も諦めてくれるのではないかと思ったからだ。
事実それ以来、消印の無いハガキが消える事は無かった。
それから数日が経ち、そろそろ仕事に復帰しようと考えていた矢先のことである。
青年は暇を持て余し、朝のワイドショーを観ていると、謎の死を遂げた夫婦という見出しでテロップが出た。
三つ先の町での事件で、夫婦の名前と顔写真が出た瞬間、青年の顔から血の気が引いた。
それは女性の娘だった。
中継に切り変わり娘の家が映ると、家からスーと出てきて消えていく、女性の姿がうっすらと映っていた。
「そんな…何故だ。」
青年は慌てテレビのスイッチを切った。