木の枝にいる少女は、勢い良く僕の胸に飛び降りて来た。いくら身軽そうな体付きとはいえ、重力には勝てず、腕の中にいる少女を抱きながら、僕は尻餅を付いてしまう。
「いてて…」
眉を潜め、腕の中にいる少女を見た。良かった…怪我はしていない様だ…。それにしても…間近で見ると、眼を奪われる位…綺麗だ。なんて思っていると…少女が口を開く
「…何?ボクの顔に何か付いてる?」
僕に、ジッと見られる事が嫌なのだろう、その声は少し冷ややかだった。
「え…えと…何…してたのかな…?って思って」
僕が慌てて、そう言うと少女は、軽くふふっと、笑みを浮かべると
「…朝ご飯、食べてた。」
その言葉に僕は固まる…。…朝ご飯?何故?あんな場所で??そんな事を頭の中で廻らせながら、やっと、絞り出した言葉は…
「…さっきの…おかず…?」
自分でも、間抜けだと思う…。空から落ちてきた、あのウィンナーが…さっき少女が食べていたであろう、お弁当(?)のおかず以外に何がある?少女は、僕の上からスッと立ち上がると、パンパンと軽くプリーツスカートのホコリを払いながら僕をジッと見た。
「そうだよ?…食べ損ねたけど。」
そう言って、少女は笑った。つられて僕も、軽く笑ってしまう。
「ね、キミ…名前は?」
少女は、まだ尻餅をついている僕にスッと細い腕を差し出しながら言った。綺麗な手が僕の前に差し出されてる…。
「あ…僕は、ハルキ…。」
自分の名前を言いながら、少女の手に自分の手を重ねた。すると少女は、くいっと自分の方へ僕を引く。見た目と違い、意外にも少女の力は強くて、僕はやっと地面から立ち上がった。
「ボクは、夕希子。」
「ユキコ…ちゃん?」
思わず復唱してしまう。正直…可愛い名前だ。と思った…僕達は、手を重ねたまま“握手”するみたく、お互いを見つめていた。
「そ。夕方の夕に、希望の希…そして女の子の子で…夕希子。キミは?」
僕が復唱したから、きっと自分の名前の漢字を知りたいのだろう。と彼女は思ったらしい。名前の漢字を僕に説明してくれた。
「僕は…カタカナで…ハルキだよ。」
そう言って微笑む。彼女は、ふぅーん。と軽く頷いて笑った。