【誠一探偵事務所】
小汚ない貸ビルの一室。
コンクリートを打ちっぱなしの造りの壁と天井、
ゴールドメッキが剥げたテーブルと古い黒い革製のソファーが一つ。
ピッ...
留守電を再生する。
中年の女
〈秀太郎が、家出したのか、駆け落ちしたのかわからないんですけど
探してくれないかしら、…………秀太郎はシャムの三歳なんですけど、可愛くて可愛くて………〉
ピッ
アパート管理会社の男
〈先々月から家賃の支払いがありませんが……〉ピッ
P&M社会長 高野恵蔵
久し振りに一杯やらんかね?..
テーブルに置いておいたので、一応目を通してくれたまえ。〉
大都会
疾走するサイドカー。
十階建てのビル・表\r
正面のプレートに大仰な金文字
【株式会社P&M】
同ビル地下駐車場
サイドカーを降りる一人の男。通用口に向う。
一人のいかつい男が寄ってくる。
「お客さん。一般の方は受付通してください。」
振向き様にその男は、掛けていたサングラスを外した。
「あっ!失礼しました、どうぞ」
【10階 】
部屋のドアを開けると西洋美術館のロビーを思わせる無機質な広い空間。
奥のマホガニーの机に背を向け、窓の外を眺めている女。
栗色の髪をしたその女は、透き通る様な白い肌をしている。
誠一の顔を見るなり別の部屋へいってしまった。
隅に、珍酒名酒の並んだバー。
重厚なカウンターの傍に、いつの間にか男が立っている。
高野恵蔵
百年も前から同じ姿勢でいるのか如く動きは殆どないが
表情と語り口は極めて動物的な生臭さがある。
恵蔵 「元気か」
誠一 「昨日、悪い夢をみた」
恵蔵 「食えてるのか」
誠一 「………」
恵蔵 「これ」
と無造作に分厚い封筒を投げる。
誠一 「断りにきたんだ..ひどい仕事が二度も続いた、他にまわせ」
扉に向う。
つづく