凄まじい勢いで砂塵が舞い上がる。
正宗の剣から発せられた炎は、龍のように荒れ狂い、波打ち際の海水を瞬時に蒸発させてゆく。
対する歳三、雷神のごとき雷を放ちながら、周囲の松林をなぎ倒す。
ひときわ甲高い金属音がした。砂塵はおとなしくなり、炎の龍と雷神の雷もおとなしくなった。
両者、刃を交えたまま、身動ぎ一つしない。
正宗が口を開いた
『光栄に思いな。俺様の龍吼炎舞を受け止めやがったのはあんたで二人目だ。』
歳三、
『お前も光栄に思え。鬼神雷斬撃を食らって死んでない奴は、お前で三人目だ』
『へっ!』
正宗は剣を引いた。
歳三はすでに納刀している。
正宗、
『しかし、まあ、派手にやっちまったなあ』
歳三は正宗につられて、辺りを見渡した。
『ふん。この辺りには松の木が多すぎて風情に欠けていた。だからちょうどいいだろう』
歳三にしては饒舌であった。京都時代を知る者がいたら、驚いたであろう。
『同感だぜ』
正宗は言った。
『あんた、気に入ったぜ。行きてえ所が無かったら、俺様と一緒にこねえか?メシくらいは奢るぜ?』
歳三も、何故か、この荒っぽいが人好きはする男を気に入った。
『遠慮なく、厄介になろう』
『そうと決まれば話ははえ。早速行こうぜ、土方歳三さんよぉ』
『案内してもらおうか、伊達正宗とやら』
『けっ!ついてきな』
そう言って、正宗は背中をみせて前を歩きはじめた。
歳三、
『お前、俺に背中を向けていいのか?斬るかもしれねえぜ』
正宗、
『あぁん?そんな器用な事が出来る奴には見えねえなぁ』
笑って言った。
『それはお互い様だ』
歳三も、ほんの少し、顔を緩めた。
一刻程歩いただろうか。
『着いたぜ』
正宗が指差したのは、荒果てた寺だった。
龍昇寺
と書いてある。
二人は、山門をくぐって境内に足を踏み入れた。