「もういいよ、アレン。行こう」ローグが片手で遮るように制して、出口に向かって歩き出した。意外に若い声だが、どこか投げやりで抑揚の無い話し方が聞く者に暗い印象を与える。
「チョット待って下さいよ、兄貴」慌ててアレンが後を追った。
出口の方で見物していた客達は弾かれたように道を開けた。
「首を洗って待っとけよ。文字通り血まみれにしてやるぜ。ブラッディ・ローグさんよぉ。ただし今度は返り血じゃあなくテメェ自身の血でな」
扉に手を掛けたローグの背中に叫んだバンガは、席に戻り酒を飲み始めた。グラスを持つ手が小刻みに震えていた。
ローグとアレンは振り返りもせず「テオの店」を出た。
店の中が、再び酒を飲む客達の喧騒に包まれると、壁際で騒ぎを見ていた男が小さく舌打ちをして席を立った。頬のこけた、ゾッとするほど暗い目をした男だった。