いつもはキンモクセイの道を走る時必ず自転車を停めて、母と色んな話しをする。
今日あった事とか、晩御飯の事とか、バレエの事とか、時にはしりとりしたり…。私にとってキンモクセイのニオイは母だった。
そして。それは今も変わらない。
少しでもドコからか流れてくると、私はその日一日キンモクセイのニオイを思い出す事がデキル!
でも今日は違う。
キンモクセイの道も猛スピードで走り去り、大好きなあのニオイは一瞬にして、消えた…。
私は自転車の後ろで、ただビクビクと怯えていた。
病院に着くと、母は私を抱き抱え一目散に受付へ走り込んだ。
それまで母にビクビクしていた私も、抱き抱えられた瞬間…一瞬だけどあのキンモクセイのニオイがした気がしたんだ…。
怪我はたいした事なく、血もすでに止まっていたので、
『今日一日は安静に…』
と言う事だった。
それでも母は…
『傷は残りますか?』
と私の頭を撫でながら何度も聞いていた。
病院の帰り道…
私は『明日から幼稚園に行くのイヤだなぁ〜
お家に着いたらお母さんに怒られるのかなぁ〜』
と、思いながら自転車の後に座った。
すると母の自転車はいつものスピードで、私は少し安心した。
でも『明日幼稚園を休みたい』と言えそうな雰囲気ではない事だけは子供心に感じた。
《でもお休みしたい事は言わなくちゃいけない!どうせ怒られるなら早い方がいい》と思い、不安イッパイで母に聞いてみた。