フィリア

紫幸 燈子  2007-12-08投稿
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「美紅の初恋の相手って、誰?」

「うぇっ?!」

ある昼下がり…教室で、机を合わせながら、お昼ご飯を食べていたら…親友の晶(ヒカリ)が、突拍子もなく、そんな事を言い出して思わず声が裏返ってしまった。その返答が面白かったのか、晶は、声を出して笑う。

「…で?美紅の初恋の〜相手は誰かなぁ〜?」

顔だけを、美紅に近付け…如何にも楽し気に問詰めてきた。美紅は、頬をピンク色に染め…小さく答えた。

「……お父さん……。」
そう呟くと、晶は無言のまま…美紅の頭に手を置き、優しく撫でる。

「ごめん。」

晶は、バツの悪そうに美紅に謝った。何故なら…美紅の父親は、もうこの世に、いなかったから…。美紅の父親は、美紅が小学4年の時…病気で亡くなったらしい。

「あ、気にしないで…。恥かしいから…ナイショ…ね?」

そう言って、美紅の幼い顔は、照れながら…くしゃっと笑顔になった。


……何とか…誤魔化せた…かな…。

美紅は、心の中で…そう呟く。
美紅には、人に決して言えない秘密がある…。
…確かに、さっき晶に言った事は“嘘”では無い…が、そのセリフには続きが存在する…。

美紅は、小学4年の時…自分の父親の“亡骸”に…【恋】をした…。その時、美紅は…自分が普通じゃない。と自覚したのだろう。美紅は、もう魂が宿っていない自分の父親を見つめて、背筋がゾクッと鳴るのを感じた。
“…なんて…綺麗なんだろう…。この人は…。本当に…死んでいるのかしら?”

美紅は、眠っているかの様な父の亡骸を見つめながら、そんな事を考えていた。周りでは、最愛の夫を亡くして、これから子供達を独りで養っていかなくては、いけない母親と有名エリート高に通っている兄が、涙を零しながら美しい死体の父を見ていた。
“どうして、兄と母は…この美しい死体を見て泣くのだろう?”
美紅は、不思議に思った。そして…まだ幼かった美紅は、悟る…。
……やっぱり、私は…オカシイのかもしれない…。
…前、テレビのニュースで聞いた事が有る。“死体愛好者…死体しか愛せない人…通称【ネクロフィリア】”…正に…私の事だ…。と美紅は幼いながら自覚と覚醒(めざめ)を抱いた。誰にも…言えない秘密。私の初恋は…自分の父親の“死体”この世で1番美しい芸術作品…。美紅は、そう信じている。



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