『じじい!客だ!茶を出しな!』
正宗は、何食わぬ顔で、庫理に上がり、叫んだ。
『やかましいのう。また戻ってきおったか、このうつけものは。いい加減、正しい言葉遣いを覚えんかい』
でてきたのは老坊主。
『うるせえ。この、くたばり損いが。奥の部屋、使うぜ』
『駄目と言うだけ、無駄じゃろうが』
老坊主はそう言うと、歳三に眼を止めた。
『ほお、そなたもなかなかのうつけものの様じゃ。だが、良い眼をしておる。名をなんと言う?』
歳三は、この老坊主の眼を見た。一見、穏やかそうに見えるが、全てを見透かすかの様な眼だ。と思った。
『土方歳三と申します』
歳三は軽く会釈した
『これはこれは。どこぞの馬鹿者と違って、礼儀はわきまえとる様じゃ。』
『あなたは?』
『おお、すまんすまん。わしの名は諾斎じゃ。まあ、覚えておってもなあんの得もないがのう』
『もういいだろう、じじい。こっちは忙しいんだよ。おい、早くこっちに来な。』
最後は歳三に向けた言葉である。
歳三は諾斎の脇をすり抜けた。
『お前さん、この世界の人間ではないな?』
すれ違い様に諾斎の囁きが聞こえた。
歳三と正宗は、囲炉裏を挟んで座っている。
『さて、何から話そうか』
正宗は誰ともなく呟いた。
『俺から話そう。信じるか信じないかはお前の自由だ』
歳三を知る者がいたら、驚いたであろう。それほど、この男から話し始めるのは珍しい。
歳三は、自分の事、自分の知っている歴史等、全て正宗に話した。
自分でも驚いていた。伊達正宗と言う男の持っている魅力がそうさせたのか。
『これで全部だ。あとはお前が好きに考えればいい』
『面白え!そんな世界があるとはな!しかし、まさか弱虫の家安が天下を獲るとはな。驚いたぜ。マジで面白えぜ。俺はあんたを信じるぜ。あんたの剣には魂がこもってた。ただのバッタもんには出せねえ真直ぐな剣気だった。そんな男が嘘をつく筈がねえ。』
歳三の予想とは裏腹に、正宗はあっけなかった。歳三は、正宗という男が何となく気に入った。
『じゃあ次は俺様の番だな。』