ほかの生徒が多くいる手間、佳純に性同一性障害の事を問い詰められない。裕介は暇な時間を佳純に訊いてみる。
「日曜日は暇だけど、あんた達、模試は何時かしら?」
裕介は博文に訊きながら問い返す。
「大丈夫です。日曜日の夕方に、駅前のファミレスで集まるように、關達に伝えます」
「約束ですよ」と口々に言い合って、博文達3人は学校を後にした。
そして約束の時間。11人が揃うのは約11ヶ月振りの事だ。駅前のファミレスでドリンクを注文し、それぞれの近況を話し合う。話題の核心は性同一性障害へと行き着く。
「ごめん……なさい。何れはばれる事だと思って、みんなには黙ってたんだ。本当は10月の文化祭―定時制のディスカッション―で大っぴらに話すつもりだった。それで、先生達と定時制の仲間と一丸となって準備に取り組んでいる」
佳純の謝罪の言葉に一同は黙り込んでしまった。一呼吸間を置いて、州和が佳純に決意の意思を尋ねる。
「僕達に謝りたい気持ちは十分伝わりました。10月の文化祭でちゃんと打ち明ける覚悟はもう出来上がっているんですね?」
「ほぼ完全に固まってる」
重くなった空気を変えようと、博文が佳純に質問を振る。
「こないだ、学校で後ろから佳純さんに抱き付かれた時、いきなり女みたいな感じがしたんですよ。ホルモンでも打ってるんですか?」
「半年くらい前から医者に女性ホルモンを打って貰ってるよ。18にならないとホルモン治療は受けられないからね。夏になって胸が出てきて……照れるな」
佳純ははにかみながら答える。しかし……
「2〜3年ホルモン治療を受けてて本当に女になろうと思ったら、今の日本では性別再指定手術は受けられないって医者に言われちゃった。その時は担任に言い辛かったな」
博文は却って空気を重くしてしまった事を悔やんだ。今度こそ気を取り直す。
「本当に受験に本腰を入れられるのは文化祭が終わってからです。青海でも全クラスで出し物をやるから、勉強の合間に文化祭の準備をしなきゃならないんです。みんな受験を言い訳にして手を抜きたくないんですよ」
臨が孝政に不意打ちを食らわす。
「そうよね〜、手芸部員♪」
一同はどっと笑いが飛び出した。