怯える田上。出来れば強く責めたくはない。けれどこのままでは田上の命が危ないと悠斗は心を鬼にした。
「田上、話してくれよ!いつまで引きずってるつもりだよ……あいつらの目的はお前を苦しめる事なんだぞ!」
頭を押さえていた手の力が加わるのが分かった。髪の毛をむしり取りそうなくらいに強く握りしめた掌。そのうち田上は絞り出す声で小さくこう言った。
「肩……大丈夫か」
何度も聞いたフレーズに悠斗の中で何かが崩れていく音がした。
「か、肩……肩が……」
「おい田上!」
爪を立てかきむしるせいで、田上の頭皮からは血が流れ出ていた。
『お前ガ言わないラ忘れられナい』
『お前が話をそラすから解決出来ナい』
怪我をしたあの日から一年。毎日のように悠斗の体を気遣う田上を鬱陶しく感じる時もあった。けれどそれ以上に田上にはいつも通りの日常を過ごして貰いたいと、言われる度に気にするなと言ってきたのに。
「田上……」
一年間も悩んでいたのか。気を遣わせまいと悠斗が話を逸らす度に田上は自分を責めていた。恨んでいるからこそ話をしたくない。話をしたら恨み言の一つでも言ってしまいそうで触れないようにしていた、とそう信じ込んでいたんだ。
『お前は友達ナんかじゃナい。親友を苦しめタ』
変わらずはやし立てるピエロを悠斗は睨んだ。怒りが押さえきれなかった。
田上が馬鹿だった。いつまでも小さな事を気にしてるせいでこんな奴らにとりつかれた。けれどそれを承知の上で近寄ってきたピエロ達にはらわたが煮え繰り返りそうだった。
「許せねぇ……」
悠斗が呟いた直後、どこか遠くから水が流れる音が聞こえてきた。
徐々に近づいてくる音に戸惑い奇声を発するピエロ達。
水は暗闇全体に浸透し、悠斗のつま先を埋める程度まで水位を上げた。
「これは……?」
「お前の夢だよ」
暗闇から現れた夢路に悠斗は驚いた。髪は後ろでまとめ皮のコートに身を包んでいて、昼間会った時とは別人のようだ。