ブランシールの魔女

紫幸 燈子  2007-12-11投稿
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「いい?決して、ブランシールの森に行っては、ダメ。」

「どぉして?」

不思議そうに男の子が、自分の母親を見上げる。母親は、片手で男の子の鼻の頭を、ちょい、と弾く様にしながら、優しく、だけど厳しい口調で言った。

「あの森にはね。…魔女がいるからよ。」

「まじょ?」

キョトン。としながら、男の子が首を傾げる。
まだ幼い男の子には“魔女”の事が理解らない様だ。母親は、男の子の小さな手を繋ぎ、話を続ける。

「…そう。魔女は、怖いのよ?悪魔と契約しているの。そして…人間を、食べるんですって。」

“人間を食べる”その言葉は、理解出来たようで、男の子は、震えた。思わず母親の手をギュッと握り返す。

「…うん。絶対…行かないよ…。」

それだけを、言って…男の子は黙り込んだ。


それから…幾年の年月が過ぎ…幼かった男の子は、好青年に成長していた。正義感が強く、誰にでも優しい人好きのする性格の青年に。
母親は…青年が14歳の時に流行病で、この世を去った。今は、青年が独りぼっちで、生活している。草牧に山羊達を連れて…。青年は、ある程度…充実した生活をしていた…。少なくとも…

…“彼女”に出逢う迄は……。

いつもの様に、草原に山羊達を放して青年は、大きな岩の上に腰を下ろし、楽しそうに草原の草を食べている山羊達を見て、不意に笑顔を浮かべた。
…こんな生活も、悪くない。
そんな事を思っていると一頭の子山羊が、群から離れ、森の方へ進んで行くのに気付いた。

「バカっ!戻って来い!そっちは…!!」

ーブランシールの森だ…。幼い頃、母親に“決して行くな”と言われていた…恐ろしい“魔女の森”
だが、子山羊は言う事を聞かず、ブランシールの森の中に入って行ってしまった。
…どうしたら…山羊を見捨てるワケにもいかない…。だけど…あの森には…
【悪魔と契約をして…人間を食べるんですって…。】
母親の言葉が脳裏に過ぎる。ブルッと軽く身震いをした…怖い…。青年は冷や汗をかきながら、初めて自分の“正義感の強い”事を呪った。

…やっぱり、見捨てられない…!!

青年は、急いで子山羊の後を追う様に、ブランシールの森へと入って行った…。

そして、青年は…自分の運命を変える“美しい魔女”に出逢う事になる…。



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