ー小学校の時飼っていた犬が急に死んだ時?!ー
いや‥違う。
ー昔付き合っていた彼女と別れた時?!ー
いや‥違う。
ー5年前、両親が交通事故で死んだ時?!ー
いや‥違う。
ソレは、今まで味わって来た、様々な感情の中でも特に、俺の記憶の中で鮮明に残っている辛い過去の記憶に纏わる感情よりも強く、
ソレは正しく、25年間生きて来て、今まで味わった事の無い、強烈な俺の中の“熱い感情”として込み上げて来たのだ。
次の瞬間、俺は男に話し掛けていた。
『おじさんもかなりヤラレたんすか?』
すると男は、斜め後ろに立っていた俺の方に、くるりと顔をむけ、こう答えた。
『なんだあんた?!ヤラレた何てもんじゃないよ。朝からこの台1台に5万も注ぎ込んじまったよ。』男は興奮していた。5万負けた位で女店員に因縁付ける位なら、こんなトコ来るんじゃねぇよ。
俺は内心そう思ったが、とにかく話の興味を俺に向けさせる為、
『5万スか?!おじさん、俺なんて3日で20万負けたよ。』
とっさに思い付いた嘘に、我ながら良く言ったなと感心した。すると男は計算どおり、俺の負け話に興味を持ったらしく、どんどん話に乗って来た。
『お兄ちゃん、3日で20万も負けたのかい?そんなに負けて、生活はちゃんと出来ているのかい?』
男の興味は、すっかり俺に向けられ、側で不安そうな顔で見ている女店員の存在すら忘れる勢いだった。男の質問に対し、俺は最も期待に副えられると思われる答えを返した。
『おじさん俺なんてさ、住む家も無いんだぜ。』
すると男は一瞬目を丸くし、じ〜っと俺の顔を覗き込んだ。
『そうか‥。あんたホームレスか‥。』
ホームレスーー。まぁ、その通りだよな。少しの間があり、その後に男はこう言った。
『ホームレスなのに3日で20万も負ける金が何処にあるんだ?』
俺も負けじとこう返した。
『おじさん、こう言う負け方してるからホームレスなんだよ。俺、嘘言って無いっスよ。財布に2万5千円しか入って無くて、これが今の全財産なんですから。毎日カップ麺ばっか食ってて、ビョーキになりそうですよ。』
『‥‥‥。』
男は俺の言葉に唖然としたのか、それともハナっから信じてないのか、再びじ〜っと俺の顔を覗き込み、含み笑いをしながらこう言った。