『あなたはダレ?』
視界の向こうに3人家族の親子の姿が見える。....いや、正確には意識の向こうに浮かび上がる景色だ。
その景色はぼやけていて、彼女たちが誰なのか分からない。
ただ、彼女たちは幸せそうにいつも一緒だった。
......こんな風に目に見えないはずのものが見え始めたのは小学校4年生の春。
私は大きな交通事故に遭い、奇跡的にも一命は取り留めたが事故のときに眼球を強く打ったらしく、
左眼だけを失明してしまった。
入院生活の最中、外にも遊びに行けない私は幼心に空想にすることが多く、
ときには病院を抜け出してどこか遠くに行きたいと願ったりしたこともあった。
そんなとき、ふと気が付くと見えない左眼の方にだけ何かの影がちらつくようになった。
そしてそれから10年以上の月日が経ち、私も結婚し子供と夫の3人で暮らしている。
この左眼でずっと見てきた家族のように幸せになることを夢見ていた。
結婚から3年が経ったある日、結婚記念日ということで子供を実家の両親に預け2人でレストラン食事に行った。
学生の頃の思い出話などを話すうち、ふとした話の流れで自分の左眼のことを話した。
事故の事、眼の奥に見える家族のこと。
彼はそういうことに詳しい病院の知り合いに聞いてみると言ったくれた。
私はこの家族を見ることが好きだった、それに精神科医のところにいって自分を異常者扱いされるのも嫌だった。
ある日、診察を勧めてくる夫と口論となった。
私は病院になんか行かないと言い、その日は早々と寝てしまった。
次の日、目が覚めると家に夫の姿はなかった。
昨日ケンカしたので何も言わずに仕事に行ったのだろう。
そう思い、家事をはじめた。
夕方。家事を終え、夕食の支度をしていると家の中から変な匂いがすることに気づいた。
匂いをたどると寝室からだった。
どうやらベッドの下かららしい。私はしゃがみこみ、ベッドの下を覗いた。
するとそこにあったのはお腹から血を流して死んでいる夫であった。
私は驚き、すぐに警察に電話しようとした。
が、そのとき左眼の奥の妻が何かをしているのが見えた。
彼女は夫を包丁で殺していたのだ!
その血にまみれた「私」は
『あなたはダレ?』と...
その顔は紛れもない自分の顔だった....