奈央と出会えたから。?

麻呂  2007-12-12投稿
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『俺は今日の負けで頭に来て、そこの女店員に、店長かマネージャーに会わせろと言ったんだが、急にあんたに声掛けられて、あんたの話を聞いてるうちに、なんだか拍子抜けしちまったよ。』
男はそう言うと、急に笑い出した。
拍子抜けしたのは俺の方だった。一発位殴られる覚悟でいたからだ。とにかく争い事や面倒臭い事に巻き込まれるのが大嫌いだった俺は、ガキの頃から目立たず地味な存在だった。中学に入り、さっき店内で10年ぶりに再会した萩原裕太に出会ってからは、多少の悪さをした事もあったが、面倒臭がりで無気力な本来の性格に変わりはなかった。そんな俺が、他人の争い事の仲裁役をしてしまった。しかも怒りが頂点に達し、今にも爆発しそうな勢いを止めてしまったのだ。
ギャンブルで大負けした時の心境なら、俺が一番良く分かっていた。なんせ自分が味わった屈辱的思いを身に染みて感じて来たからである。
『興奮して余計なエネルギー使っちまって腹が減ったな。兄ちゃん、そこの店で飯でも食わないか?金が無いなら俺が奢るよ。5万負けても飯代位は残ってるからな。ハッハッハ。』
男はそう言ったが、俺は丁重に断った。毎日カップ麺ばかり食っていたので腹は減っていたが、飯に付き合わされて、また怒りが復活されても困るからだ。とにかく面倒臭い事はまっぴらだった。
男が去っていき、ホッとした俺は、側でさっきから俺と男とのやり取りを心配そうに見ていた女店員の存在に気付いた。
『あの‥‥。』

女店員が先に口を開いた。

『ありがとうございました。助かりました。さっきの男性は常連さんなんですが、負けると今の様に悪態つかれてしまうんです。』

『そうなんだ。別に俺は何もしてないし‥。ただ、あまりにもあっさり治まったから拍子抜けしたと言うか‥‥。』

俺はそう言いながら、さり気なく女店員ネームプレートを確認した。

“木下 奈央”

きのしたなおーー。
『あの‥。この店には良く来られますか?あ‥もし常連さんだったらごめんなさい。お顔も覚えていなくて‥‥。』

『え?!あ‥。俺?!ん〜〜っと。まぁ、時々?!』

思いがけない質問に、俺は内心動揺していた。さっきの男に話しかける直前の気持ちの高揚がまた蘇って来た。



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