寒空を舞う鶴は美しい。紅い頭の鶴を守るために黒い頭の鶴は舞う。
その頃の僕は人への感謝のきもちが常にたりない奴だったと思う。今でこそ、人への感謝の気持ちを忘れないと心に強く思うことで、自分が自分でいられるのだと思う。そんな僕を作ってくれた女性がいた。その女性のおかげで僕はやっとまともな奴になれた。
中学3年の夏。高校受験を間近に控えた僕は、母親に急かされて、嫌々予備校に行っていた。嫌々でも行っていたということは、何かしら、予備校に魅力があったわけだが、魅力は英語の授業だった。黒板なんかそっちのけで前から三列目の左から二番目を見ていた。後ろ姿からでも僕の目を一瞬たりとも、離させなかった。首筋にかかるくらいの黒髪、バランスの取れたスタイル、姿勢のよさ。肌の色は決して白い方ではなかったけど、どの点をとっても僕にとっては完璧な存在だった…
僕は恋に落ちた。彼女の名前は片山 結衣。
ありふれた、恋愛小説の始まりかもしれない。だけど、僕の恋は誰も経験したことがないくらい幸せで、切ない恋だ。誰にも負けない恋だ。相手が病気やら事故やらで、お亡くなりになってしまうような安っぽい恋愛小説なんか、もぅいらないって人に読んで欲しいんだ。